紫に走り裂けたる氷かな
みちのくの雪深ければ雪女郎
寒椿少しく紅を吐きにけり
雪折の松かゝるなり谷むかふ
枯芝の海に傾き榻もまた
浪寄せて水仙の花白きかな
茶の花の大一番のふくよかに
炉開や枯菊を焚く香あり
燈火くらし酒あたゝむる火赤し
叱られしものばかりなり漱石忌
冬の蜂われあはれめば彼われを
あたゝかき柱をのぼる冬の蜂
枯芦の一葉は軽し舟もまた
手賀沼に棹しあそぶ冬ぬくし
草の穂に裾明りしておでん店
山茶花の貝の如くに散りにけり
大木にかくれて日向ぼこりかな
東京に南部の炭の大俵
女だち忘年会に行く支度
帯みんな美しかりし年忘れ
銀猫も竃猫となつて老ゆ
実朝の歌ちらと見ゆ日記買ふ
銀盤にのせて山鳥雄と雌
大川に煤竹流れ年はゆく
百花園春の七草籠に盛り
立ち枯るゝものなつかしや百花園