長谷川かな女
行年や庭木に伽羅を植ゑ込みて
笹鳴の木の裏あたり母の咳
雀殖ゆる小春の庭をたのしみぬ
父と母の御墓一つ冬の日に
沈む日に鳴き立つ冬の獣かな
母恋しければ落葉をかむり掃く
石蕗の花こゝ句をよみし庵なるに
冬ざれて焚く火に凹む大地かな
仲見世や櫛簪に春近し
ゆきし人は帰らず除夜の灯かな
円山の雪寒紅の猪口に降る
仮の宿火鉢に頼り坐りけり
埋火に来る鶯を見忘れず
榊葉の時雨るゝところ女住む
冬の鹿頸細々と木枝嗅ぐ
鮟鱇や鼠小僧を泊めし家
山茶花に心おぼえし西東
散紅葉子の輪に入りてふと淋し
沈む日を子に拝むませぬ冬紅葉
冬紅葉倒れんほどに凭りしかな