和歌と俳句

長谷川かな女

葉鶏頭端書一ぱいに書きにけり

秋雨や殊に杉戸の絵をぬらす

谷へ飛ぶ山鳥の尾や花野

願ひ事なくて手古奈の秋淋し

空濠にひゞきて椎の降りにけり

尺八吹けば琴のゆくなる秋の風

見廻はれば人眠り居ぬ野分の夜

蜻蛉にあるけば出でぬ雑司ヶ谷

白萩に堅く戸さすや夫の留守

独りごちてをこし居る母老ひし

母とあればわれも娘や紅芙蓉

芝踏むやそこに紅葉燃え立ちぬ

江戸の話する母唐もろこしの一粒一粒

草紙絵のごと朝顔を盆に摘む

戸を打つ搏つて落ちし簾や初嵐

彩りし犬の画姉妹夜学かな

囲をはりて坐りし蜘蛛や月の中

龍胆の太根切りたり山刀

盥かゝへて柿の烏を見てゐたり

星合や歌のほかなる思ひ事

呪ふ人は好きな人なり紅芙蓉

秋の蚊に床几うごかす西日かな

園のそとをかついで人通り