よき衣に春惜む絲を引きにけり
切凧の敵地へ落ちて鳴りやまず
汐上げて淋しくなりぬ澪標
春の夜を襖へだたる二人かな
雪急に撒き去る雲や梅白し
春暁の天窓過ぎる猫白し
花曇二階に見ゆる九段かな
垣椿に庭の桜の風雨かな
家人おぼえし仔犬の顔や壺すみれ
花落ちし椿挿しある春夜かな
春泥に光り沈みし簪かな
傘さゝぬまだ人通り春の雨
燕や懸想して見る牛車
どこの水に鳴く蛙かな夜の雨
蕾もつ草をおぼろに踏みしかな
春愁の襟紫に掻きあはす
残雪のいたゞきによく雨の降る
宿引にかまわず椿見て立ちし
花の雲白酒売は女形かな
白酒のちよこをなめつゝ酔ひしかな
初雷の嫩芽を叩く風雨かな
草原の軍楽隊や桜咲く
土筆野やよろこぶ母につみあます