和歌と俳句

長谷川かな女

春昼の海潮音に垣芽照る

利休忌やラヂオ報ずる事きびし

春の雷一度に柿の芽の匂ふ

観世音念じ黝き春雪

魚菜の火つくる神ある春土かな

紅梅の老樹うるほふ風雨かな

燻る炉をはなれず梅を嗅ぎにけり

久の人に牡丹の蕾五つあり

幽明の別はありけり花曇

春の霜月ある方へ消ゆるかな

笙鳴るや「林歌」に連るゝ春の宵

胡坐を組み楽人の面朧ろなり

楽人に高麗の名多き暮春かな

金の蛇に足踏みし春を追ふ舞楽

弥生晴る葛刈り来し大原女

入学の一つ時にさくら咲けるかな

わが手筥の玩具にどゝと春の雷

初雷にかつと照りつゝ桃落花

紅梅の散る屋根龍泉寺町なりし

落花して梢冷たく月射せり

下萌えに母を想ふ日なりしかな