長谷川かな女
行く秋の月に思ひの遠きかな
袴つけて茸飯炊くや日蓮忌
簗手あふるゝ水勢となり下り簗
焼石を谷に投げては秋耕す
盆の月母の忌日を此の浦に
生れたる日本橋の雨月かな
柘榴盛つて女人の座とす十三夜
山の花こぼす句帖や十三夜
小浅間より晴れかゝりけり秋の雲
秋風や乗りてあそびし一里塚
あまつ日に頂裂けぬ秋の島
垂乳根の乳の仔牛にあかとんぼ
秋風や額のつよき斑ら牛
初秋の屋根を鳩とぶ日本橋
珠数まろし天地まろし秋深く
秋の旅ひとりが着たる黄八丈
秋の灯にむかひて来たり山の蝶
海の上にうつり動ける銀河かな
青軸の筆を銀河に立てゝ持つ
秋の山灯れるそこも湯を噴けり
岬々の石碑恐ろし秋の湖
警策に散る木犀の大樹かな
木犀の掌にも溢れて猶匂ふ