和歌と俳句

雨月

かつら男すまずなりけり雨の月 芭蕉

どこ更る空のあてども雨の月 鬼貫

灯火やおのれがほなる雨の月 鬼貫

茶屋ともの婦夫いさかふ雨の月 越人

雨の月どこともなしの薄あかり 越人

傘の端のほのかに白し雨の月 子規

船頭遂に蓑笠つけて雨月かな 虚子

傘影の出来ては消ゆる雨月かな 泊雲

二三人雨月の傘や尻からげ 泊雲

舟をりをり雨月に舳ふりかへて 蛇笏

枝豆を喰へば雨月の情あり 虚子

縁側に射したり消たり雨月かな 青畝

舟の音そこに聞ゆる雨月かな 青邨

岸に著く雨月の船のなつかしく 立子

沢山に雨月の船の止りゐる 立子

生れたる日本橋の雨月かな かな女

雨月とて端へ心をいくたびも 青畝

庭篝燃えくすぶりて雨月かな 淡路女

語りゆく雨月の雨の親子かな 久女

月の雨さくら餅屋の閉めてあり 万太郎

近みちの土手を下りるや月の雨 万太郎

古都の上にさしわたりたる雨月かな たかし

くらがりに炭火たばしる雨月かな 波郷

膝抱いてとのゐの教師雨の月 蕪城

寝るまでは明るかりしが月の雨 虚子

冷ゆるよと雨月の羽織とりいだす 秋櫻子

うなぎ笊ころがしてある雨月かな 

ナイターの遠空染めて雨月なり 秋櫻子

立てかけて雨月の傘の皆黒し 林火

沢蟹の甲あをあをと雨月かな 林火