和歌と俳句

燕帰る 帰燕

帰燕いづくにか帰る草茫々 漱石

時くれば燕もやがて帰るなり 漱石

いぶしたる炉上の燕帰りけり 碧梧桐

民の訴訟届かぬを去ぬ燕かな 碧梧桐

燕去んで部屋部屋ともす夜となり 碧梧桐

湖のしぐれに帰る燕かな 碧梧桐

魚喰うて帰燕にうたふ我が子かな 蛇笏

胡桃樹下水くらく凪ぐ帰燕かな 蛇笏

ゆく雲にしばらくひそむ帰燕かな 蛇笏

噴煙にまぎれ去りたる燕かな 月二郎

やがて帰る燕に妻のやさしさよ 青邨

今宵閑帰る燕に餞すべし 青邨

つばくろの帰れば羽織欲しと思ふ 青邨

菩薩嶺は獄はるかにて帰燕ゆく 蛇笏

帰燕とぶ空を見て干す漆壺 麦南

白猫の見れども高き帰燕かな 蛇笏

ひたすらに飯炊く燕帰る日も 鷹女

身をほそめ飛ぶ帰燕あり月のそら 茅舎

黒姫も落暉負ふ山燕去る 多佳子

懸瀑にしら雲ありて帰燕とぶ 蛇笏

河口の帰燕の上になほ帰燕 誓子

ひややけく家居はなりぬ燕去る 誓子

燕はやかへりて山河音もなし 楸邨

飢せまる日もかぎりなき帰燕かな 楸邨

人妻の袂の丸み燕去る 鷹女

人に税帰燕は帰る国ありき 楸邨

噴油待つ帰燕渺茫たる下に 楸邨

またがりて野に追ふ牛に帰燕かな 蛇笏

大阪の帰燕仰げば旅の声 草田男

垣刈りてわが家そばだち帰燕舞ひ 爽雨

地を蹴って掴む鉄棒帰燕あまた 三鬼

湖の村祭してをる帰燕かな 風生

渦の上のみぢんの渦も帰燕まふ 爽雨

北國の帰燕かぞふるほど居らず 青畝

燕帰る漢方薬がゆつくり効き 双魚