家々の窓は子のもの花火の夜
花火咲く大圓雲につかへつつ
大文字の残んの火こそ天あがり
遠ざかるものに病みし日秋扇
秋うちはかさねたる柄の崇みたる
こぞり寄せこぞり去りつつ踊りけり
遠眼にも園新涼の岩の縞
秋蝉の音声幹の低きより
初花の対の芙蓉をとみかうみ
一枚に透けし一幹秋すだれ
日曜の畫室は畫塾秋さくら
ばす下りる出迎への中とんぼの中
桔梗と白きちこうと切りむすび
七草を求めゆく葛は足もとに
水引の森のもれ日に立ちすがり
杉あふぐ一よろめきの爽かに
杉仰ぐことにぞ執し秋山路
垣刈りてわが家そばだち帰燕舞ひ
佛飯に見えゐる零餘子家の秋
大いなる耳に大き手蟲を聞く
もたれよる柱背を打ち蟲の闇
耳に手にすいつちよ聞え加はりし
蟲の音のあつまるところ空にあり
風に乗るなごりの蟲の声ばかり