はじまりし旅の花野は道辺より
鶏頭の安し子の声家にあれば
鵙来鳴く机辺このごろ遠めがね
天高き舟行ここにえり重囲
舟行くにえりは綾為し湖の秋
ひとつ音のかしこばかりに虫なごり
腹へらすことにも温泉浴み秋の雨
負ひやれば子にも月あり虫なごり
地下街も旅をゆくみち秋の暮
コスモスのゆれやみしみな空を亨け
白波の背波立つあり鮭のぼる
鮭のぼる波に鰺刺そひ翔くる
鮭のぼる河原色草踏みゆくに
走馬燈二人のぞきに点したる
故人やや遠きはなやぎ絵灯籠
茎襖またひまなけれ曼珠沙華
墓参みち泉二つを経つつ坂
掃苔の垣に空蝉のこしたる
香煙の蚊をも払ひぬ墓詣
着ずなりし甚平二枚秋の雨
低山も雲居て伊豆の稲の雨
舞ひつつむ中に天なる蜻蛉見る
群とんぼ仰ぎて頬にもふるるあり
花々のさだかに花野道ますぐ
這松を抽きつつ尾根も花野なす