かさねつつ浴泉ひとり秋の雨
相へだつ鶏頭種を採りしあと
松杉の秀は深大寺月のもと
落鮎の薬餌の腸も食ふべけり
渦の上のみぢんの渦も帰燕まふ
窓によるおのづとふたり秋の暮
萩刈りて折りてなほ丈なせりけり
宵の蟲餉には起きくる病妻に
わが聞いてわが噛む音の梨の秋
朴の実の堆朱研ぐなり秋高し
観楓の朝の暖房館を出づ
刈萩をただちに焚いてよく燃ゆれ
鵙高音墓開眼の経にそふ
鹿垣の野菊ばかりを内外なる
鹿垣の辺の足跡に猪の子も
柿をむく吉野翁の刃の迅けれ
壺の菊と目守りあひしが稿起す
萩刈りて太虚といふを庭の上
萩刈りし手を洗ひつつ汚れなし
簀戸は庭を簾は人を透きて秋
湯けむりの真柱の断つ嶺の秋
旅に見る冥府の鹿火の三つ連るる
鶏頭の雨見ゆ花のすこし上
出でて沿ふわが家のまがき秋の暮