断食の水恋ふ夜半や稲光
罠なくて狐死にをる野分かな
碁布の島初汐浪を上ぐるかな
川上の水静かなる花野かな
祭の灯あかきに鹿の遠音かな
大風に傷みし樹々や渡り鳥
いぶしたる炉上の燕帰りけり
建網の十日の月や鰡の飛ぶ
鮎落ちぬ草庵の硯凹みけり
蜩や兵村にある牛牧場
末枯の南瓜一つや庵の畑
蟷螂や我行く道に現はるゝ
山囲む帰臥の天地や柿の秋
落合のほとりの村や柿紅葉
木犀に薪積みけり二尊院
吾庭や椎の覆へる星月夜
挿しあるを流人のよみし薄かな
十哲の像と桔梗と薄かな
法窟の大破に泣くや曼珠沙華
鳴滝や植木が中の蕃椒
行徳の里は蘆の穂がくれかな
鳴きやまぬ虫に句作の遅速かな
城山の蹴落しの谷や夕紅葉
醍醐辺川水を照る紅葉かな
櫨寺の墓にも参るゆかりかな
大文字や北山道の草の原
猿酒や炉灰に埋む壺の底
学問の稚子のすゝみや秋の風
幌武者の幌の浅黄や秋の空
山荘の眺望御記や秋の空
誰人か月下に鞠の遊びかな
荒削り羯摩が鬼の十三夜
川霧に竜の流るゝ筏かな
晴々と萩憐れむや天竜寺
誰が植ゑて雁来紅や籠り堂
掛稲のつぶれも見えて川原かな
青墓の野に庵室の芋畑
藁散てもみづる草の堤かな
牧人の日出る方や秋の峯
人岩の高きに見ゆる秋の山
吐せども酒まだ濁る瓢かな
藁覆ふ藻塚匂ふや露の中
蜩や浦人知らぬ崖崩れ
静かさや燈台の灯と天の川
七夕の旅に病むとぞ便りせる
石を積む風除に七夕竹見ゆる
虚空より戻りて黍の蜻蛉かな
雨に泊れば雨は晴れたる蜻蛉かな
七浦の祭の木槿咲きにけり