西日さす地蔵の笠に蜻蛉哉 子規
蜻蛉やりゝととまつてついと行 子規
蜻蛉の中ゆく旅の小笠哉 子規
砂濱にとまるものなし赤蜻蛉 子規
掘割を四角に返す蜻蛉哉 子規
赤蜻蛉飛ぶや平家のちりぢりに 子規
大藪や数を尽して蜻蛉とぶ 漱石
蜻蛉や杭を離るる事二寸 漱石
蜻蛉飛ぶ川添ひ行けば夕日かな 虚子
竹竿のさきに夕日の蜻蛉かな 子規
つるんだる蜻蛉飛ぶなり水の上 漱石
赤坂も田舎になりて蜻蛉かな 碧梧桐
南窓に写真を焼くや赤蜻蛉 漱石
から松は淋しき木なり赤蜻蛉 碧梧桐
左千夫
赤羅曳く朝日かがよふ花原の園のまほらに秋津群飛ぶ
節
豆干す庭の筵に森の木のかげる夕に飛ぶ赤蜻蛉
節
水泡よる汀に赤き蓼の穗に去りて又來るおはぐろ蜻蛉
節
小波のさやさや來よる葦村の花にもつかぬ夕蜻蛉かも
虚空より戻りて黍の蜻蛉かな 碧梧桐
雨に泊れば雨は晴れたる蜻蛉かな 碧梧桐
牧水
火事あとの黒木のみだれ泥水の乱れしうへの赤蜻蛉かな
待つ人に裾野にあへり夕蜻蛉 碧梧桐
茂吉
事なくて見ゐる障子に赤とんぼかうべ動かす羽さへふるひ
茂吉
まもりゐのあかり障子にうつりたる蜻蛉は去りて何も来ぬかも
まのあたり精霊来たり筆の先 漱石
舟遊ぶ飛騨古川や夕蜻蛉 碧梧桐
飛騨人の天領顔や飛ぶ蜻蛉 碧梧桐
晶子
赤蜻蛉風に吹かれて十あまりまがきのうちに渦巻を描く
蜻蛉の夢や幾度杭の先 漱石
生きて仰ぐ空の高さよ赤蜻蛉 漱石
肩に来て人懐かしや赤蜻蛉 漱石
匂欄の擬宝珠に一つ蜻蛉哉 漱石