和歌と俳句

齋藤茂吉

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苅しほ

秋のひかり 土にしみ照り 苅しほに 黄ばめる小田を 馬の来る見ゆ

竹おほき 山べの村の 冬しづみ 雪降らなくに 寒に入りけり

ふゆの日の うすらに照れば 竹群は 寒々として 霜しづくすも

窓の外に 月照りしかば 竹の葉の さやのふる舞 あらはれにけり

霜の夜の さ夜のくだちに 戸を押すや 竹群が奥に 朱の月みゆ

竹むらの 影にむかひて 琴ひかば 清掻にしも 弾くべかりけり

月あかき もみぢの山に 小猿ども 天つ領巾など 欲してをらん

猿の子の 目のくりくりを 面白み 日の入りがたを わがかへるなり

留守居

まもりゐる 縁の入日に 飛びきたり 蠅が手を揉むに 笑ひけるかも

留守居して 一人し居れば 青光る 蠅のあゆみを おもひ無に見し

留守をもる われの机に え少女の え少男の蠅が ゑらぎ舞ふかも

秋の日の 畳の上に 飛びあよむ 蠅の行ひ 見つつ留守すも

入日さす あかり障子は 薔薇色に うすら匂ひて 蠅一つとぶ

事なくて 見ゐる障子に 赤とんぼ かうべ動かす 羽さへふるひ

まもりゐの あかり障子に うつりたる 蜻蛉は去りて 何も来ぬかも

留守もりて 入日あかけれ 紙ふくろ 猫に冠せんと おもはななくに