草むらに落つる野分の鴉哉
名月や笛になるべき竹伐らん
湖をとりまく秋の高嶺哉
森濡れて神鎮まりぬ秋の山
翡翠の来らずなりぬ秋の水
釵で行燈掻き立て雁の声
竹竿のさきに夕日の蜻蛉かな
稲刈りてにぶくなりたる螽かな
飼ひ置きし鈴虫死で庵淋し
仏へと梨十ばかりもらひけり
いがながら栗くれる人の誠哉
榎の実散る此頃うとし隣の子
行脚より帰れば棗熟したり
我ねびり彼なめる柚味噌一つ哉
柿くふや道灌山の婆が茶屋
僧坊を借りて人住む萩の花
芒わけて甘藷先生の墓を得たり
芋の子や籠の目あらみころげ落つ
三日月の頃より肥ゆる小芋哉
何ともな芒がもとの吾亦紅
里川や燈籠提げて渉る人
石ころで花いけ打や墓参
芋阪の団子屋寐たりけふの月
見に行くや野分のあとの百花園
書に倦むや蜩鳴て飯遅し
蜩や几を圧す椎の影
雨となりぬ雁昨夜低かりし
祇園の鴉愚庵の棗くひに来る
つり鐘の蔕のところが渋かりき
柿熟す愚庵に猿も弟子もなし
稍渋き仏の柿をもらひけり
御仏に供へあまりの柿十五
三千の俳句を閲し柿二つ
椎の実を拾ひに来るや隣の子
団栗の落ちずなりたる嵐哉
朝顔のさまざま色を尽す哉
本尊は阿弥陀菊咲いて無住也
いもうとが日覆をまくる萩の月
貧しさや葉生姜多き夜の市
萩芒来年逢んさりながら
萩咲くや生きて今年の望足る
蓮の実の飛ぶや出離の一大事
大菊に吾は小菊を愛すかな
清貧の家に客あり蘭の花
虚子を待つ松蕈鮓や酒二合