子規
市人にうられんものをしら菊の花ようらみそ我手折るとも
一枝は荷にさしはさむ菊の花 子規
南山にもたれて咲くや菊の花 子規
旭に向くや大輪の菊露ながら 子規
戸あくれば紙燭のとどく黄菊哉 子規
白菊の老いて赤らむわりなさよ 子規
菊咲くや草の庵の大硯 子規
松に菊古きはもののなつかしき 子規
人形をきざむ小店や菊の花 子規
疾く帰れ母一人ます菊の庵 漱石
山四方菊ちらほらの小村哉 漱石
菊の香や故郷遠き国ながら 漱石
旅に病んで菊恵まるる夕哉 漱石
窓をあけて君に見せうず菊の花 漱石
菊咲て通る路なる逢はざりき 漱石
本尊は阿弥陀菊咲いて無住也 子規
門前に琴弾く家や菊の寺 漱石
白菊に酌むべき酒も候はず 漱石
白菊に黄菊に心定まらず 漱石
節
うねなみに作れる菊はおしなべて下葉枯れゝどいまさかりなり
白菊のしづくつめたし花鋏 蛇笏
白菊にしばし逡巡らふ鋏かな 漱石
晶子
雨雲のややとぎれたる日に見出づ草の中なる白菊の花
白菊の一本折れて庵淋し 漱石
節
桐の木の枝伐りしかばその枝に折り敷かれたる白菊の花
節
芋の葉の霜にしをれしかたへにはさきてともしき黄菊一うね
晶子
菊の花黄なるは秋の家にふかむ白きは敷かめおん通路に
端渓に菊一輪の机かな 漱石
侘住居作らぬ菊を憐めり 漱石
節
稻刈りて淋しく晴るゝ秋の野に黄菊はあまた眼をひらきたり
晶子
白き菊ややおとろへぬ夕されば明眸うるむ人のごとくに
関跡に地蔵据ゑけり菊の秋 碧梧桐
晶子
青白し寒しつめたしもち月の夜天に似たるしら菊の花
白菊にもみづる草のあはれかな 万太郎
生き返るわれ嬉しさよ菊の秋 漱石
明けの菊色未だしき枕元 漱石
蔓で提げる目黒の菊を小鉢哉 漱石
菊の香や幾鉢置いて南縁 漱石
生垣の隙より菊の渋谷かな 漱石
はつ菊や大原女より雁の文 蛇笏
菊咲くやけふ佛参の紙草履 蛇笏
菊の香や太古のままに朝日影 蛇笏
白秋
人形の秋の素肌となりぬべき白き菊こそ哀しかりけれ