和歌と俳句

正岡子規

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むさしのの しののをすすき かたよりに なびけば残る 有明の月

あら澤の 鴫たつかたゆ くれそめて 尾花の袖を かへす秋風

ともし火に 玉章てらす 心地して 月のおもてを 渡るかりがね

山のはの をぐらき陰ゆ 飛ぶの 月あるかたに 現はれて行く

むさしのの 尾花の末は さだかにて 月よりさきに 落る雁金

友鹿に 追はれてのぼる 山のはに 秋の一夜を なきつくすらん

草まくら 薄の本の 露しげみ 袂の上に ぞなくなる

秋風の ふくとも見しか むさしのの 尾花をわけて 人の行く也

秋風の 吹けばの 聲すなり 薄にくるる 原の一つ家

見渡せば 雪かとまがふ 白絲の 瀧のたえまは 紅葉なりけり

市人に うられんものを しら菊の 花ようらみそ 我手折るとも

紅葉せし 山又山と 見渡せば 雲井に寒き ふじの白雪

我戀は まがきのひまを 行く駒の まなくときなく 思ふ頃哉

いざといはば ゑびすもきらん 我手とて 櫻の花を 手折るのみかは

世の中に すみかなければ 天が下 いづこかおのが やどりならざる

心しも なきものながら 佐保姫の まことうれしき 春のよそほひ

山路には 花こそなけれ 春くれば 我ものがほに 鶯のなく

世をすてし 身とはおもへど 雨の日は すげのふるみの すげのふるがさ

かざしたる 花のうつり香 したたりて すげのをがさに そぼつ春雨

心あるや 鏡が浦に 波たちて 我やつれにし 影もうつらず

千々にさく 野邊の春草 つみいれて 菅の小笠も いまぞ花がさ