天つ空 青海原も 一つにて つらなる星か いさりする火か
朝な朝な 霞の底に 色そへて 遠山櫻 今やさくらん
木枯らしの 吹きくるからに 磯馴松
高どのの 三つば四つばの あととへば 麦の二葉に 雲雀なくなり
いつのよの 庭のかたみぞ 賤が家の 垣根つづきに 匂ふ梅が香
高砂の 浦の眞砂を 相生の 松の齢の 數取りにせん
夕立の はるる跡より 月もりて 叉色かふる 紫陽花の花
雨に朽ち 嵐にやれし 草の戸に 君が心の 涼しかりけり
かたみだに 今はなつのの しの薄 まだ穂にいでぬ 風の色哉
夕されば 妻やまつらん まつしまの 小嶋隠れに いそぐ釣舟
松しまや 雄嶋の浦の うらめぐり めぐれどあかず 日ぞくれにける
浪の音の 闇もあやなし 大海原 月いづるかたに 嶋見えわたる
心なき 月はしらじな 松嶋に こよひ許りの 旅寐也とも
いつの代に ふきし嵐ぞ 八百あまり 砕けてちりし 沖の松しま
旅衣 ひとりぬれつつ 夕立の 雲ふみわけて 君をとふ哉
すみあらす 伏家の庭の 池ふりて 眞菰がくれに さける河骨
朝日さす 寐ざめの窓に 影見えて 花ふみちらし 鶯のなく
けふもまた かりくらしつつ のる駒の たて髪白く 櫻ちる也