御佛の いとも尊とし 紅の 雲か櫻の 花のうてなか
朝な朝な 鶯来鳴く 窓の内に 何物語 人のよむらん
棚橋に 駒立てをれば 薄月夜 梅がか遠く 匂ふ夕暮れ
牛に乗りて いづくに人の 帰るらん 柳のちまた 桃の下道
君来ぬと 見し手枕の ゆめさめて 櫻に残る 有明の月
大海原 八重の潮路の あとたえて 雲井に霞む もろこしの船
焼太刀を 抜きもち見れば 水無月の 風冷かに 龍立昇る
君が着る 羅紗の衣手 をさをあらみ な吹きすさみそ から山颪
谷におふる 葉廣柏の 陰暗み 昼も鳴く也 山時鳥
松にかかる 布かと見しは 久方の 空より瀧の 落るなりけり
嶋山を 雲たちおほひぬ 伊豆の海 相模の海に 浪立つらしも
雲かあらず 煙かあらず 日の本の 山あらはれぬ 帆檣の上に
ことさへく から山颪 秋立ちて 大砲の音に 馬いはふなり
米洗ふ 賤が門邊の いささ川 痩せてぞ咲ける 花杜若
丈六の 佛の御手の たなそこに 雲立のぼる 五月雨の空
木枯の 風吹きおろす 大井川 紅葉おしわけて 筏さすなり