日蓮を 埋めし山に 風は吹けど とこしへにてらす 法のともし火
朝日さす 小池の氷 半ば解けて 尾をふる鯉の うれしくもあるか
雛祭る 三日も近し 隣なる 女の童に桃の 枝折りてやる
兒だちよ な取りそ檐の 雀の巣 雀子を思ふ 母は汝をおもふ
椽先に 玉巻く芭蕉 玉解けて 五尺の緑 手水鉢を掩ふ
天津橋上 繁華の子等の 見えしより 天津橋下 春の水し
伊れ昔 顔紅の 美少年 花賣るをぢと なりてけるかな
洛陽の 市に花賣る 翁にぞ 昔の春は 問ふべかりける
高楼の 翠簾たれこめて 春寒み 飛び来る蝶を 打つ人もなし
板塀に 立枝ぞ見ゆる 門構 誰か思ひ者か 梅に琴をひく
梅咲きぬ 鮎も上りぬ 早く来と 文書きてよこす 多摩の里人
山里に 蠶飼ふなる 五畝の宅 麥はつくらず 桑を多く植う
都近く 世を隠れ住む 草の戸に 柳は植ゑず 梅植ゑてけり
永き日を ただ一すぢに つばくらめ 鎌倉までや 行き返るらん
飼ひおきし 籠の雀を 放ちやれば 連翹散りて 日落ちんとす
人も来ず 春行く庭の 水の上に こぼれてたまる 山吹の花
やぶ入の 女なるらし 子を負ひて 凧持ちて 野の小道行く
都邊は 氷賣るなり 白山の 峯のみ雪の 今か解くらし
都邊は 埃立ちさわぐ 橘の 花散る里に いざ行きて寐む
春の夜の おほとのあぶら 参らする 少将の君は ねびまさりたり