峯こえて 樛多きかけの 岨道に 山別れする 鷹を見るかな
一村の 爺婆こぞる 盆踊 影もまばらに 月更けにけり
盆の月 踊の歌ぞ 聞えける 君は百迄 わしや九十九迄
聖霊の 供物を捨つる 裏戸口 芋の畠に 鴉鳴くなり
歌聞え 太鼓とどろく 薄月夜 隣の村は はや躍るらん
聖霊の 歸り路送る 送り火の もえたちかぬる 月あかりかな
亡き親の 来るとばかりを 庭の石に ひとりひざまづき 麻の殻を焚く
里川の 流にかけし 水車 汲みてはこぼす 山吹の花
都人は いざとく歸れ 山櫻 暮るる野道に 盗人や出ん
大君は 大御親の喪に こもります 今年の春も 花咲きにけり
貴人は 御喪にこもるか 先を追ふ 花見車を 見ることもなし
試みに 君の御歌を 吟ずれば 堪へずや鬼の 泣く聲聞ゆ
日は落ちぬ 雨はふりいでぬ 飯たきて 妻待つらんぞ 馬うちて行け
さからはぬ 心の友ぞ えまほしき 木の實くふ友 歌つくる友
子を思ふ 峯のましらの 鳴く聲に 旅行く人の 袖ぞぬれける
嘴と足と 赤きといひし 業平の 昔おもほゆる 都鳥かも
望の夜は 恋しき人の 住むといふ 月の面を ながめつつ泣く
誰も誰も つれなかりける 世の中に 死なばか人の あはれとは見む