子規
草まくら 薄の本の 露しげみ 袂の上に 蟲ぞなくなる
一葉
もろともに 涙あらそふ 心地して 枕に絶えぬ むしのこゑかな
横窓は嵯峨の月夜や蟲の聲 子規
一葉
夕されば 荻のうは葉に ふく風の そよ音にたてて 虫も鳴なり
一葉
来ん人も いまは待たじの 雨の夜に なのりもつらき 虫の音ぞする
一葉
なきよわる 庭の虫のね たえだえに 夜はあけがたが 悲しかりけり
経箱の底に蟲なく清凉寺 虚子
一葉
有明の 月かげ残る 庭草の 露にわかるる 虫の声かな
節
名を知らぬ 末枯草の 穗に茂き 甍のうへに 秋の虫鳴く
鳴きやまぬ虫に句作の遅速かな 碧梧桐
相慕ふ村の灯二つ虫の声 虚子
虫の句を案ずる旅の恙かな 碧梧桐
夜ながら盥すゝぎや虫の声 碧梧桐
牧水
寝すがたは ねたし起すも またつらし とつおいつして 虫を聴くかな
牧水
ふと虫の 鳴く音たゆれば 驚きて 君見る君は 美しう睡る
虫鳴くや庵の樹と見ゆ寺の杉 碧梧桐
温泉烟に灯ほのかや虫の声 碧梧桐
石段の高きのぼりぬ虫の声 碧梧桐
母と住むわが世は古し蟲の聲 万太郎
憲吉
雨晴れの 石のあはひの 夕のいろ 静けき土に 蟲なけるかも
赤彦
蟲が来て ランプに鳴きぬ 夜の室の 古き畳に 寝反れる子どもら
赤彦
山にして はや秋らしく 鳴く蟲を 抱きてやりたき 宵ごころかな
赤彦
山にして 蟲なくなべに 峡の底 家も沈みて 行く心地かも