和歌と俳句

蟲の聲金魚の夢にこぞりけり 万太郎

蟲鳴くや衣桁の袈裟の落ちゐる 茅舎

雨音のかむさりにけり蟲の宿 たかし

よよとまゐる手打ちうどんや虫の宿 野風呂

虫なくや火気の失せたる大厨 野風呂

放されて高音の虫や園の闇 久女

草深くひくゝ鳴きゐる虫もあり 立子

だんだんと星明らかに虫しげし 立子

けふも旅のどこやらで虫がなく 山頭火

死にそこなつて虫を聴いてゐる 山頭火

白浪おしよせてくる虫の声 山頭火

休んでゆかう虫のないてゐるここで 山頭火

山の水のうまさ虫はまだ鳴いてゐる 山頭火

虫きいて明るき部屋に戻りけり 風生

虫の園上がる径あり上りもす 風生

草山のそらはあかるし虫の声 悌二郎

虫が鳴く一人になりきつた 山頭火

鳴いてきてもう死んでゐる虫だ 山頭火

ねむがりて子等寝しあとの蟲時雨 汀女

虫鳴くやわけて今宵は身にちかく 悌二郎

さむらひの影の射す身や虫の宿 草田男

ひとつ虫颱風に鳴けり音の絶えず 楸邨

行燈さげ老の手をとり蟲の園 風生

月となる洞爺の水に虫通ふ 亞浪

ふと覚めて旅ならぬ身に虫近し 亞浪

湯にひたる背筋にひたと蟲時雨 茅舎

縷々の虫秋草の陽に濃くうすく 草城

虫しぐれひと戦をならふ野に 楸邨