一陣のひぐらし鳴く音おこるなり
蜩のなき代りしははるかかな
水影と四つとびけり黒蜻蛉
さむらひの影の射す身や虫の宿
其虫の鳴くとき夜風立つかにも
此部屋に幾年ぶりや茶たて虫
一ト跳びにいとどは闇へ皈りけり
月に飛び月の色なり草かげろふ
鏡面に薄羽かげろふ垂れとまり
はたはたに影及ぼせば飛びにけり
蜻蛉行くうしろ姿の大きさよ
鵙の目の対へる畑の一ト火燃ゆ
色鳥が小首に枝を見上げたる
子供居りしばらく行けば懸巣鳥居り
跫音のともるを椋鳥おそれけり
萩叢やかがみて居ればをはる雨
掃かれたる地にきはやかや秋の人
眼の前を江の奥へ行く秋の波
秋草の多きにつれて人恋し
秋草をもたらし塞ぐ燈下かな
末枯や行きつつ猫の走り出す
末枯に下ろされ立てる子供かな
山深きところのさまに菊人形