和歌と俳句

中村草田男

火の島

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夕汽笛一すぢ寒しいざ妹へ

足あとのの大路を妹がりへ

矢絣や妹若くして息白し

妹手拍つ冬雲切れて日が射せば

妻ごめに五十日を経たり別れ霜

蜆蝶廃園の木々相凭れ

廃園や燕も嘴を胸にうめ

妻祷る真黄色なる夕焼に

きりぎりす時を刻みて限りなし

涼風の面を衝つて渇癒ゆる

八月も落葉松淡し小会堂

聖燭はすずし一聯左右に二点

夏真昼祷れる眼窩暗うして

神の楽梁をたゆたふ爽かに

霧うすき小諸城址に入らんとす

城頭の夏芝に枯れ一つ松

青空は遠夏山の上にのみ

婆々の背に胡桃の袋かつかつと

猛るピアノ雀見て居る夕立雲

妻二タ夜あらず二タ夜の天の川

晩夏光バットの函に詩を誌す

隣室の診断ひそひそ林檎一つ

因果めくヂンタの音あり秋曇