和歌と俳句

中村草田男

火の島

火の島は夏オリオンを暁の星

歩み入る島は中夏の朝月夜

竜舌蘭朝焼雲は洋に立つ

我船は去り放牛に日照雨すずし

合歓は醒めず椿茂りのしづかさに

石崖の浜木綿の空真青に

火の山は夏富士を前戦を背

夏日は呼び霧は退路を閉したり

火口壁夏日直下す洽さよ

爆音と夏日火口に底ごもる

地底の音松籟為して夏真昼

炎帝へ噴煙の端沸き焦る

地火紅し顧みすれば夏碧海

火口一つ四方の洋より雲の峯

朝涼を笑む島の娘の糸切歯

玉虫の飛んで眉濃き島の娘なり

火の島の茂りの乙女吾に羞ぢしよ

岩窟の岩門のしきゐ土用波

土用波中空もただ岩盛る

土用波岩門岩窟声たてる

洋が咲かせし無人の磯の鳳仙花

青萱に切られて血噴く一文字

花覇王樹無銘の碑為し海へたつ

青き雨港一曲に山へ霽る