みな寒し桐の切株穴をそなへ
霜解けず遺影軍帽の庇深く
寒谺高校生の弔銃に
赤き幹冬の松籟捧げ立つ
寒燈にひとり寝る塵たちにけり
冬落日晒れ看板を黄に消しぬ
白足袋のチラチラとして線路越ゆ
冬の日や電車を出れば顔ゆるむ
停車場の大綿たれにかかはりある
隙間風車掌の歌の尾客へ来る
耳澄ます寒夜思ひ出はるかさに
喰ふ林檎紅し展び展び日向道
冬雲雀石切場ふかく深くなる
八ツ手咲け若き妻ある愉しさに
青空に寒風おのれはためけり
書庫守に声なきラグビー玻璃戸走す
冬空西透きそこを煙ののぼるかな
雪催ひ菓子食ふならば灯に染めて
洋傘は突き足は踏みつつ冬の闇
凍金魚ラヂオの声に息吹あり
大試験了へたる双児の爪伸び居り
吾手なほひそかに素き冬の皮膚
採点と父の仏菓に灯ぞ冴ゆる
朝日全形春定まらんとするなり
麦ひろらいづこにひそみ赤児泣く