和歌と俳句

中村草田男

火の島

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みな寒し桐の切株穴をそなへ

解けず遺影軍帽の庇深く

寒谺高校生の弔銃に

赤き幹冬の松籟捧げ立つ

寒燈にひとり寝る塵たちにけり

冬落日晒れ看板を黄に消しぬ

白足袋のチラチラとして線路越ゆ

冬の日や電車を出れば顔ゆるむ

停車場の大綿たれにかかはりある

隙間風車掌の歌の尾客へ来る

耳澄ます寒夜思ひ出はるかさに

喰ふ林檎紅し展び展び日向道

冬雲雀石切場ふかく深くなる

八ツ手咲け若き妻ある愉しさに

青空に寒風おのれはためけり

書庫守に声なきラグビー玻璃戸走す

冬空西透きそこを煙ののぼるかな

雪催ひ菓子食ふならば灯に染めて

洋傘は突き足は踏みつつ冬の闇

凍金魚ラヂオの声に息吹あり

大試験了へたる双児の爪伸び居り

吾手なほひそかに素き冬の皮膚

採点と父の仏菓に灯ぞ冴ゆる

朝日全形春定まらんとするなり

麦ひろらいづこにひそみ赤児泣く