黒土の春に式後の女学生
春陰の国旗の中を妻帰る
妻抱かな春昼の砂利踏みて帰る
雛の軸睫毛向けあひ妻子睡る
吾子顎に力皺寄せ虻見守れる
母の背に居る高さ虻の来る高さ
のけぞれば吾が見えたる吾子に南風
吾子の瞳に緋躑躅宿るむらさきに
朧三日月吾子の夜髪ぞ潤へる
宵闇の義父の広掌へ子を托す
目あけ臥る公園の空燕のみ
飛燕高し物干台に狆動く
ひもじさは嬉しさに似てセルの胸辺
胸病めば農婦日傘をさして通る
日曜をその故に賞づ端居の花
端居の祷り夙に亡き友かもしれず
風六月教師と柱暦煽る
耳を掻く癖などつきて火蛾に孤り
郷愁は梅雨の真昼の鶏鳴くとき
汽車発着空樽の胴梅雨が鳴らす
袋町梅雨の弱星かかげ棲む
仄白し梅雨降り寄れば風押しゆき
まだ消ざる優曇華嗤ひ箸を措く
優曇華やしづかなる代は復と来まじ
猫の仔の鳴く闇しかと踏み通る