和歌と俳句

中村草田男

火の島

世界病むを語りつつ林檎裸となる

や友真直ぐに獄ゆ出で来し

峰鶯谷鶯へ四肢投げ出す

岩襖来て頭上めぐり去る

舌と歯に春風あたる眼をつむり

水煙をふり放ちつつ木の芽

山吹流す岩門の彼方本流過ぐ

吾子の春額を仰ぎて壁たたく

桐の花妻に一度の衣も買はず

青雲白雲夏の朝風一様に

萬緑の中や吾子の歯生え初むる

赤んぼの五指がつかみしセルの肩

梅雨さやぐ灯の床吾子と転げ遊ぶ

睡蓮の明暗たつきのピアノ打つ

遍路脱ぐ今日のよごれの白足袋を

梅雨の地にはずまぬ球は投げあげる

枕木を五月真乙女一歩一歩

吾子も亦汗の蓬髪瞳澄めり

城は赤土実桜こぼれ晴れつづけ

樟大樹孤独の翡翠翔けまどひ

翡翠去つて指に指環の残るのみ

日のひかり蟻地獄さへ樟のにほひ

桜の実教師身辺土平ら

読書の餓ゑ葉桜日増し公園かくす

向日葵に澄む即興の子を守る歌