和歌と俳句

中村草田男

火の島

曼珠沙華南国の出に田が親し

炎天に妻言へり女老い易きを

月へわめくラヂオドラマの悲劇のみ

顧みし母が家月へ風呂煙

草抜きて根を白らめみし月の下

友もやや表札古りて秋に棲む

月夜なり買ひ来て下駄を眺める妻

祖母・父在す電線の上の月の空

ほととぎす二児の父なる暁を啼く

ほととぎす二児の枕の房ひそか

長女次女に落葉松葉月散りそめぬ

落葉松にけじめなし露の迷ひ栗鼠

泳ぎ子等千曲波だつ一曲に

妙義嶺は肌も示さずいま夏山

白き妙義の肌の窪深く

夏雲湧けり妙義は岫もあらなくに

夏雲躄る妙義は音のなき山なり

緑陰と一幹を去る妙義さらば

障子洗ふ代々の瀬戸片沈む川に

燕光るわたまし嘗てなき町に

妻と来てつめたし土の岸

苔厚き長枝の下の泉湧く

水の穂をみてぐらと揺り泉湧く

泉辺に日のありどころ妻問へり

泉辺のわれ等に遠く死は在れよ