曼珠沙華南国の出に田が親し
炎天に妻言へり女老い易きを
月へわめくラヂオドラマの悲劇のみ
顧みし母が家月へ風呂煙
草抜きて根を白らめみし月の下
友もやや表札古りて秋に棲む
月夜なり買ひ来て下駄を眺める妻
祖母・父在す電線の上の月の空
ほととぎす二児の父なる暁を啼く
ほととぎす二児の枕の房ひそか
長女次女に落葉松葉月散りそめぬ
落葉松にけじめなし露の迷ひ栗鼠
泳ぎ子等千曲波だつ一曲に
白き滝妙義の肌の窪深く
夏雲湧けり妙義は岫もあらなくに
夏雲躄る妙義は音のなき山なり
緑陰と一幹を去る妙義さらば
障子洗ふ代々の瀬戸片沈む川に
燕光るわたまし嘗てなき町に
妻と来て泉つめたし土の岸
苔厚き長枝の下の泉湧く
水の穂をみてぐらと揺り泉湧く
泉辺に日のありどころ妻問へり
泉辺のわれ等に遠く死は在れよ