和歌と俳句

鳳仙花 ほうせんか つまくれない

花ならば爪くれなゐやおしろいや 子規

紙漉きの恋に咲きけり鳳仙花 碧梧桐

白秋
薄らかに紅くか弱し鳳仙花人力車の輪にちるはいそがし

白秋
しみじみと涙して入る君とわれ監獄の庭の爪紅の花

白秋
鳳仙花われ礼すればむくつけき看守もうれしや目礼したり

山寺の局造りや鳳仙花 普羅

茂吉
たたかひは 上海に起り 居たりけり 鳳仙花紅く 散りゐたりけり

茂吉
鳳仙花 かたまりて散る ひるさがり つくづくとわれ 帰りけるかも

茂吉
鳳仙花 城あとに散り 散りたまる 夕かたまけて 忍び来にけり

憲吉
鳳仙花土にくはしく散りゐたり下ごもりたる葉の蔭の廻りに

憲吉
爪ぐれの雨にまかせてかく散りて蓋しやかれが忘れたるらむ

憲吉
爪ぐれは乙女のごとく首垂れて露ひかる眼をしのばしめたり

憲吉
鳳仙花あまりに赤く地に見えてちりぢり散るは我が嫉みなり

憲吉
鳳仙花ほろほろと散るかくのごとたやすく散りて身をまかすかや

赤彦
女手に炭団もろむる昼久しちりたまりたり鳳仙花の花

赤彦
鳳仙花くれなゐ零れこぼるれど炭団まるめて余念なし女

家富んで朝暮の粥や鳳仙花 蛇笏

落日に蹴あへる鶏や鳳仙花 蛇笏

物干すに躓く石や鳳仙花 泊雲

鶏掻いて痛めし土や鳳仙花 泊雲

昼餉一家に恥ぢ通りけり鳳仙花 汀女

絲つけし金亀虫とび来ぬ鳳仙花 泊雲

干傘のうらにかくれぬ鳳仙花 淡路女

我鼻に汗ぼ一つや鳳仙花 石鼎

掘りあげし土管の土や鳳仙花 泊雲

人去つて井辺しづまりぬ鳳仙花 石鼎

降り足らぬ砂地の雨や鳳仙花 久女

鳳仙花夕日の花の燃え落ちし 花蓑

鳳仙花泊りに飽いて二三日 月二郎