和歌と俳句

高橋淡路女

お月見や畳にこぼす花の水

幼子や花火戻りを背に寝たる

よく締まる根の元結や秋の風

紫陽花の色に咲きたる花火かな

うきことを身一つに泣くかな

紐赤き妹が笠きて案山子かな

干傘のうらにかくれぬ鳳仙花

染めかへて着て又よしや秋袷

子規忌の翌をひそかに詣で女達

秋風や手筥の蓋のうす埃

秋海棠にそゝぐはげしや軒の雨

秋草を透きて燈ほのと岐阜提灯

山寺の釣瓶ひた洩る墓参かな

七夕や筆の穂なめし唇の墨

川霧や馬ものせ行く夕渡舟

雁来紅にたちよりときぬ洗ひ髪

戸を閉むやのよければひとり言

俄かなる招きの文や十三夜

しをしをとしをれ柳や秋の雨

売れ残る八百屋の芒後の月

秋袷振りのくれなゐ目に立ちぬ

稲かくる女や少し背のびして