和歌と俳句

秋袷

相撲取のもみ裏染し秋あはせ 許六

いつつきし膝の絵具や秋袷 久女

退院の足袋の白さよ秋袷 久女

面痩せて束ね巻く髪秋袷 久女

病み痩せて帯の重さよ秋袷 久女

躾とる明日退院の秋袷 久女

熱涙拭ふ袂の緋絹や秋袷 久女

染めかへて着て又よしや秋袷 淡路女

やがて気づく菊の小雨や秋袷 みどり女

白粉気なくて人柄秋袷 みどり女

佇つときは頼りて二人秋袷 かな女

秋袷振りのくれなゐ目に立ちぬ 淡路女

淪落の底の安堵や秋袷 草城

ふところに紺の香高し秋袷 普羅

つつましや秋の袷の膝頭 普羅

秋袷仕立かへたるしつけ絲 淡路女

起き出でてなつかしの世や秋袷 淡路女

秋袷つゞきて赤き紐出でぬ かな女

好み着る黒き羽織や秋袷 淡路女

地味なれど人の形見や秋袷 淡路女

晴れて来て入る播磨路や秋袷 かな女

年寄りて帯どめの朱や秋袷 蛇笏

忙しき月日となりぬ秋袷 淡路女

母に似て細き面輪や秋袷 鷹女

吾もまた淋しき性よ秋袷 鷹女

花葛の淡き模様の秋袷 鷹女

ぢみな色をわれは好めり秋袷 鷹女

一日の旅をたのしむ秋袷 淡路女

秋袷身を引締めて稽古事 虚子

秋袷忌日の月もこえにけり 

木洩れ日の素顔にあたり秋袷 信子

立ちながら身丈測らる秋袷 誓子

妻の留守掛れる妻の秋袷 誓子

しつけ絲ふくむ哀憐秋袷 蛇笏

秋袷酔ふとしもなく酔ひにけり 万太郎

秋袷ひとりに下る昇降機 汀女

老いて尚芸人気質秋袷 虚子

襟もとを気にするくせや秋袷 万太郎

襟しかとあはせて秋の袷かな 万太郎

小づくりは母親ゆづり秋袷 真砂女

子も孫もなき身のをかし秋袷 万太郎

三人くる秋の袷に背もそろひ 爽雨