鈴木真砂女
立秋の日除ふかぶかおろしけり
立秋や雲の上ゆく雲とほく
手をのせし胸の薄さや朝の秋
海の風ほしいまゝなり星まつり
軒先に海暮れかゝる門火かな
ほゝづきのわかき青さや魂まつり
燈籠を水に置く手をのばしけり
流燈のすぐに消えたるひとつかな
ぬかみそへ漬けし生姜の秋涼し
朝顔の種採る雲のゆきゝかな
光陰矢の如き簾捲きにけり
吊ればすぐ風来る蚊帳のわかれかな
稲妻や島に住みゐる一家族
稲妻のはげしき夜々の俵編み
塩つけて鮑あらふやいなびかり
高汐の通へる秋の生簀かな
音といふ音のきこえず秋の汐
小づくりは母親ゆづり秋袷
秋風や波の残せし波の泡
秋風や船虫走る岩の照り
秋風や牡蠣はがしたるあとの岩
秋風や汐にいたみし海女の髪
秋風や手相できめる運不運
亀、首をのべてあはれや秋の風
秋の夜やインク足したるインク壺
雁来紅一人となればたちつくし
十六夜や古妻古き帯を締め
十六夜や出先へかゝる電話かな
洗濯にひやけし指や菊日和
子にえらぶ白き毛糸や鳥渡る
ゆで上りたる蟹笊に十三夜
引汐の芥置き去り十三夜
十三夜波あきらかにかへしけり
漁師の子ばかり集り海鼠打てり
縁に日のさし来る障子貼りにけり
障子貼る鰯干場を目の下に