和歌と俳句

鈴木真砂女

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冬紅葉身軽な旅に出たりけり

波先のすぐそこにあり冬の菊

海に住みて海を忘るゝ炉を開く

大鍋に蟹ゆで上る時雨かな

薬のむ湯のなまぬるき時雨かな

しぐるヽや煮物に入るヽ燗ざまし

障子手にかけて声かけ夕時雨

割烹着ぬぐとき時雨きヽにけり

髪洗ふ湯の沸きすぎし時雨かな

冬汐といへどもぬくし岬の果て

落葉焚く悔いて返らぬことを悔い

落葉焚き人に逢ひたくなき日かな

焚火して日向ぼこして漁師老い

ふところに手紙かくして日向ぼこ

汐汲みの汐こぼしゆく冬日かな

冬の夜や逆さに吊りし大鮪

老いてなほ漁師たくまし根深汁

冬の蠅病めばかろがろ抱かれもし

冬の海老さはれば生きてゐたりけり

手袋の手をつなぎあふ親子かな

短日やひくき波のむ高き波

短日や岬のあざみ色うすく

木枯の波に捲かるヽ行方かな

つま先に石さからひし枯野かな

冬ごもり鶏は卵を生みつヾけ

女三界に家なきのつもりけり

人を人と思はぬ浜の寒鴉

母の忌やぬくき雨降る寒ン一ト日

寒鰤のいづれ見劣りなかりけり

寒紅や酒も煙草もたしなまず

罪障のふかき寒紅濃かりけり