和歌と俳句

枯野

鮒釣つて金箔こぼす枯野かな 不死男

還る俘虜枯野八方の果てより来る 静塔

真青な河渡り終へ又枯野 多佳子

比喩もろとも信仰消えて枯野の日 草田男

女歩くすでに枯野を遠く来て 誓子

ひとの掌の触るることなき枯野の石 信子

枯野の路の三猿塚をよしと見き 亞浪

落日の枯野ゆく子のうたへるや 亞浪

行くほどに枯野の坂の身高まる 草田男

紅きもの枯野に見えて拾はれず 誓子

往き逢ひしときより枯野又遠し 誓子

貨車押して片目は枯野見つつあり 楸邨

紙屑をすてて枯野をひからしむ 楸邨

行き消えて又行き消えて枯野人 たかし

枯野中行けるわが紅のみうごく 節子

大枯野壁なす前に歯をうがつ 三鬼

昼酒の唄や枯野へ筒抜けに 林火

枯野起伏明日といふ語のかなしさよ 楸邨

汐干ひて干潟につゞく枯野かな 普羅

つま先に石さからひし枯野かな 真砂女

真夜中の枯野つらぬく貨車一本 三鬼

縄跳びの間隔置きて枯野すすむ 誓子

病むかぎりわが識りてをる枯野道 波郷

眼をあげてみても枯野にかはりなし 

枯野行き橋わたりまた枯野行く 風生

猫も野の獣ぞ枯野ひた走る 誓子

莨火にも由布の枯野の燃えやすき 多佳子

枯野の日職場出できし顔にさす 三鬼

こみあぐるやうに米磨ぎ枯野見る 楸邨

荒壁を押し塗る男枯野の日 三鬼

足急ぐ枯野や箱の菓子動く 静塔

梶棒を顔へ高揚げ枯野人 草田男

病む母が倦みゐる枯野なつかしき 波郷

枯野より帰る両手を暗く垂れ 不死男

運命に従ふごとく枯野ゆく 風生

枯野測量二人呼応は嬉しげに 草田男

コントラバス嚢にかくれ枯野行く 不死男

枯野に日戸をあけて鳴く鳩時計 不死男

訪ねむとしたは止む枯野の友ばかり 波郷

沖に立つしら波みゆる枯野かな 万太郎

釣堀のわづかにのこる枯野かな 万太郎

枯野見る石の狐の尾を握り 不死男

噴煙は枯野に獅子の影なせる 秋櫻子

月さすや枯野にのこる夕茜 秋櫻子

落葉松をいでて枯野の夕月夜 秋櫻子

崩壊の音を枯野の遙かより 悌二郎

繕ひの音か塔より枯野ゆく 爽雨

枯野来て法隆寺みち松に菰 爽雨

枯野来て塔ただちなり見の惜しき 爽雨

塔うつるとある金魚田枯野ゆく 爽雨

殺佛や枯野をわたる破戒佛 耕衣