瓜盗りし少年屈みつつ走る
追ひつめし蟹濁流に没したり
きりぎりす青春なくてなきゐたり
キヤムプ寝し地の一郭のしづかなる
手を挙げる天の夕焼長ければ
一点の偽りもなく青田あり
子を抱きて麦のとがれる畦のみち
麦生より身は低くして子が通る
麦の穂に夕日を惜しみなく頒つ
六月の星出でそめぬ砂利置場
死がちかし星をくぐりて星流る
身を起こすとき全身の汗流る
悲しさの極みに誰か枯木折る
蚊帳を出て蚊帳の暗さにおどろけり
露の夜に生れて怺へきれず泣く
良夜あけ昼は昼として明るし
曼珠沙華蘂のもつれをほぐし終ふ
秋の暮水中もなた暗くなる
焚火して女ばかりの寡婦ばかり
冬樹伐る倒れむとしてなほ立つを
鷺とんで白を彩とす冬の海
女歩くすでに枯野を遠く来て
天狼のひかりをこぼす夜番の柝
餅搗きし家ありすでに音ひそめ