和歌と俳句

山口誓子

青女

瓜盗りし少年屈みつつ走る

追ひつめし蟹濁流に没したり

きりぎりす青春なくてなきゐたり

キヤムプ寝し地の一郭のしづかなる

手を挙げる天の夕焼長ければ

一点の偽りもなく青田あり

子を抱きてのとがれる畦のみち

麦生より身は低くして子が通る

麦の穂に夕日を惜しみなく頒つ

六月の星出でそめぬ砂利置場

死がちかし星をくぐりて星流る

身を起こすとき全身の汗流る

悲しさの極みに誰か枯木折る

蚊帳を出て蚊帳の暗さにおどろけり

露の夜に生れて怺へきれず泣く

良夜あけ昼は昼として明るし

曼珠沙華蘂のもつれをほぐし終ふ

秋の暮水中もなた暗くなる

焚火して女ばかりの寡婦ばかり

冬樹伐る倒れむとしてなほ立つを

鷺とんで白を彩とす冬の海

女歩くすでに枯野を遠く来て

天狼のひかりをこぼす夜番の柝

餅搗きし家ありすでに音ひそめ