和歌と俳句

山口誓子

青女

いづこにも衰老のゐて日向ぼこ

わが友の来るも帰るもの伊賀

寒餅を切るか鈍重なる音す

墓山に厚き氷を凝らしめ

わがあはれ目刺食ひたる唇渋く

オリオンの角婚礼の夜は煖し

春の昼坂も焦土として下る

春昼の焦土の繁華知人なし

陽炎が鉄路の果を見せしめず

海苔乾場透きとほる火焚きはじむ

海苔粗朶の暮るる方よりひとひとり

もはや脱ぐものなし海女の袒裼は

春の日やポストのペンキ地まで塗る

うしろ手に春の夕日のさいをるか

天牛の通りか焦げて春日さす

旅空の奈良の墓石や春の暮

春の暮汽罐車の燈暗く発たむとす

眼づたへば糸づたづたに凧

行く雁の啼くとき宙の感ぜられ

雀より卵盗りしをみそなはす

月はなほ光放たず藤の房

大河に逆浪たちて咲けり

強風に吹かれて麦と吾青し

げんげ田の鷺や直ちに天へ飛ぶ

赤斑ある虎杖思ふのみに酸し

目の盲ひるまで晩春の野に遊ぶ

わが遊ぶ丘遠き丘春の蝉

昨夜人を焼きたる丘の春の蝉

げぢげぢよ誓子嫌ひを匐ひまはれ

万緑やわが掌に釘の痕もなし

蟻地獄砂の切口あざやかに

房を寸断にせし子と帰る

行く雁の啼くとき宙の感ぜられ

やさしさは殻透くばかり蝸牛

顎をひきしめて田鋤の馬すすむ

田を鋤ける牛や角より行きちがふ

脂粉なき少女とともに蛍狩

獲て少年の指みどりなり

いなびかり終に子のなき閨照らす