和歌と俳句

陽炎

陽炎や南無とかいたる笠の上 子規

陽炎や苔にもならぬ玉の石 子規

陽炎や草くふ馬の鼻の穴 子規

陽炎の落ちつきかねて草の上 漱石

干網に立つ陽炎の腥き 漱石

陽炎や日本の土に殯 子規

茂吉
春あさき 小田の朝道 あかあかと 金気浮く水に かぎろひのたつ

ちらちらと陽炎立ちぬ猫の塚 漱石

陽炎や浜に地網の二ところ 石鼎

茂吉
にはたづみ流れ果てねば竹の葉ゆ陽炎のぼる日の光さし

陽炎や石乾きつつ草の中 石鼎

陽炎や一葉の草にのぼりけり 石鼎

陽炎や藪穂たれゐる遠畑 石鼎

陽炎の上ると見れば下に哉 石鼎

かげろふや猫にのまるる水たまり 龍之介

陽炎の移り移れる旅人かな 喜舟

かげろふや影ばかりなる仏たち 龍之介

陽炎や我去れば我影も去る 石鼎

陽炎の碑面へ向ふ我の影 石鼎

陽炎に吹き当つ風や石の面 石鼎

積み腐る藁の陽炎のびて消ゆ 石鼎

水の上或は這て陽炎へり 花蓑

陽炎や掃き起したる朽芭蕉 石鼎

陽炎や日に熱しある廬遮那仏 石鼎

陽炎や土くろぐろと菜の畑 石鼎

そこはかとかげろふかゞみ話かな 爽雨

陽炎に掘り出されし壺ぞかし 秋櫻子

ゆくほどにかげろふ深き山路かな 蛇笏

日曜の人にかげろひそめにけり たかし