和歌と俳句

正岡子規

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鶯横町塀に梅なく柳なし

野道行けばげんげんの束すててある

足の立つ嬉しさに萩の芽を検す

山吹や小鮒入れたる桶に散る

うたた寐に風引く春の夕

永き日や雑報書きの耳に筆

初午に鶯春亭の行燈哉

藍壺に泥落したる

に来てひたと病みつきぬ花盛

我病んでの発句もなかりけり

山吹の花くふ馬を叱りけり

雪の絵をも掛けたる埃哉

蓑掛けし病の床や日の永さ

蒲団着て手紙書く也春の風邪

二番目の娘みめよし雛祭

母方は善き家柄や雛祭

汐干より今帰りたる隣哉

雪残る頂一つ国境

下駄借りて宿屋出づるや朧月

芹目高乏しき水のぬるみけり

手に満つるうれしや友を呼ぶ

池の端に書画の会あり遅桜

銅像に集まる人やの山

病牀の匂袋や浅き春

春寒き寒暖計や水仙花

新海苔や肴乏しき精進落

曲水の詩や盃に遅れたる

顔を出す長屋の窓や春の雨

仏を話す土筆の袴剥ぎながら

何も書かぬ赤短冊や春浅し

春深く腐りし蜜柑好みけり

春の日や病牀にして絵の稽古

ラムプ消して行燈ともすや遠蛙

松杉や花の上野の後側

土筆煮て飯くふ夜の台所

春惜む一日画をかき詩を作る

土佐が画の人丸兀げし忌日かな

橘の曙覧の庵や人丸忌

鬚剃るや上野の鐘の霞む日に

陽炎や日本の土に殯

下総の国の低さよ春の水

たらちねの花見の留守や時計見る

家を出て土筆摘むのも何年目

念仏に季はなけれども藤の花