和歌と俳句

春蘭

春蘭の垂り葉とどける真砂かな 草城

白秋
石の面にむらがる羽蟻音立てて香は時経ちし春蘭の花

春蘭や巌苔からぶけしきにて 蛇笏

春蘭の花とりすつる雲の中 蛇笏

春蘭にうづまく髪を臥せしかな かな女

春蘭にくちづけ去りぬ人居ぬま 久女

春蘭や耳にかよふは竹の雨 草城

春蘭や雑木未だ日を遮らず 青邨

春蘭や天城が降らす雪かぶり 青邨

春蘭を掘りに出かけて谿の雪 青邨

春蘭の呆け花ある山路かな 青邨

みちのべに春蘭花をいとなめり 草城

春蘭や香炉けむりを忘れけり 草城

春蘭や香のかたちに香の灰 草城

春蘭やみだれあふ葉に花の数 淡路女

春蘭を掘りてはえごの木の下に 立子

堀りきたる春蘭花をそむきあひ 立子

春蘭の一株づつの土大事 立子

春蘭のむらさきひとつ石に咲けり 秋櫻子

春蘭の古葉剪らんと思ひつゝ 烏頭子

花現れし春蘭いだき屋上より 烏頭子

春蘭の花咲き物価騰貴せり 草城

春蘭や嫁かぬ娶らぬ人あまた 草城

春蘭や机も古りぬ人も古りぬ 草城

春蘭の脂粉の如く匂へりき 青邨

白秋
春蘭の冷やき葉叢の香の蘊み点滴の音は鉢の外にあり

白秋
春蘭のかをる葉叢に指入れ象ある花にひた觸れむとす

夜ならでは人を訪ひ得ず夜の春蘭 草田男

憂き日々にあり春蘭の薄埃 信子

春蘭の影濃くうすく昼しづか 信子

薄照りの陽に春蘭のもの憂しや 信子

春蘭を掘り提げもちて高嶺の日 虚子

春蘭を鍬に載せ提げ戻り來る 虚子

春蘭の曾ての山の日を恋ひて 虚子

春蘭や雲わけのぼる上の宮 秋櫻子

春蘭や實生の松にかこまれて 立子

春蘭の林の雨に日も濡れつ 秋櫻子

春蘭の風をいとひてひらきけり 

春蘭のふかみどりなる雲の冷え 蛇笏

春蘭や暗きに打てる紙砧 秋櫻子

春蘭や人去りぎはのさびしさに 汀女

春蘭や細瀧かかる十余丈 秋櫻子

春蘭や小瀧の多き裏高尾 秋櫻子

春蘭を掘り学帽に入れこめり 静塔

指に葉を梳きて春蘭花さだか 爽雨

春蘭を掘りに入りゆく法の山 林火