口紅の濃からぬ程に男雛かな
風遊ぶ八重山吹のみづ枝かな
落椿紅も褪せずに流れけり
花椿ひろふ子に樹の高さかな
瓶にさして桜はうすし花のいろ
さやさやと風音すなり花吹雪
春蘭やみだれあふ葉に花の数
浜風や遍路の妻のおくれがち
春の駒人に嘶き甘えけり
初蝶を見失うたる檜垣かな
風に堪へ花を去らざる揚羽蝶
現し世のきのうは過ぎぬ桜狩
花人に篠つく雨となりにけり
涅槃像女人は袖に涙かな
をりからの望月くらし涅槃変
むらさきに暮るゝ障子や雛の宿
降りそゝぐ雨にかぐろし蝌蚪の陣
八重桜たわゝに咲いて大月夜
沈丁の香にこの頃の月のよき
大粒の杉の雫や春の雪
荷ひ込む大海苔籠や浦の宿
海苔掻に粉雪ちらつく手元かな
海苔掻女濡れ手をかざす磯焚火
海苔採や女もすなる頬かむり
桜貝波打ち際は程遠し