からたちの花の匂ひのありやなし
春暁や枕元なる歌屏風
さゝやかな夕餉すまして暮遅し
春風や屑物市に糸車
春泥や靴音重く子の帰る
やはやはと降りてつもりぬ春の雪
草餅に憩うて淋し一人旅
初午や風にまたゝく行燈の灯
境内はまだ皆枯木一の午
塀越えて蝶一つまたひとつ
部屋明し蛙鳴く夜の針仕事
天地に神おはしけり草萌ゆる
春雨にぬれたる髷を撫でにけり
帯とけば足にまつはり春の夜
睦まじき老の夫婦や二日灸
唇少しあけておはせる女雛かな
梳る髪の長さもうらゝかに
初午や古き幟ももののかず
花御堂葺く花籠に摘みためし
吹く風にまだ花散らぬ梢かな
夜桜に通りすがりの尼法師
桃の花活けこぼしたる蕾かな
連翹に人住みかはる小家かな