和歌と俳句

高橋淡路女

からたちの花の匂ひのありやなし

春暁や枕元なる歌屏風

さゝやかな夕餉すまして暮遅し

春風や屑物市に糸車

春泥や靴音重く子の帰る

やはやはと降りてつもりぬ春の雪

草餅に憩うて淋し一人旅

初午や風にまたゝく行燈の灯

境内はまだ皆枯木一の午

塀越えて一つまたひとつ

部屋明し蛙鳴く夜の針仕事

天地に神おはしけり草萌ゆる

春雨にぬれたる髷を撫でにけり

帯とけば足にまつはり春の夜

睦まじき老の夫婦や二日灸

唇少しあけておはせる女雛かな

梳る髪の長さもうらゝか

初午や古き幟ももののかず

花御堂葺く花籠に摘みためし

吹く風にまだ花散らぬ梢かな

夜桜に通りすがりの尼法師

桃の花活けこぼしたる蕾かな

連翹に人住みかはる小家かな