和歌と俳句

高橋淡路女

何かある早春の水を覗きけり

春の雷鳴り居し雲の消えにけり

末黒野の黒みわたれる小雨かな

おもむろに鶴歩み出づうらゝかな

着古せし羽織に春の寒さかな

いたづらに古りゆく身かな針供養

ちゝはゝのある子の幸や雛祭

日当りて明るく澄めり蝌蚪の水

猫の子を叱れば何か啼きにけり

初午や思ひがけなき夜の雪

花曇り別るゝ人と歩きけり

蛙の子押しかたまりて安堵かな

ゆるゆると鳴つて通りぬ春の雷

かんばせは春眠とこそ見まつれど

豆雛いみじう飾り栄えにけり

藤の雨飽きて閉めし障子かな

旅人の笠脱ぎおがむ涅槃像

ゆく雲や万朶の花に風のあり

見ぬ人と春惜しみあふ便りかな

居ながらに雲雀野を見る住ひかな

ふり向きしうしろに月や春の宵

あまさかる鄙のをとめも針供養

茶の間にも桃の色紙や雛の宿

睦まじく立て添はせけり紙雛

しどけなく帯ゆるみ来ぬ花衣