和歌と俳句

高橋淡路女

初午や人のとだゆる宵の口

泳ぎ出てあやぶみ戻る蝌蚪のあり

桜草かへりみすれば色さみし

苗代や浄き白紙を鳥おどし

手を洗ふ田の水ぬるきげんげかな

飛びつれて白鷺迅し汐干潟

相よべぬ程に離れつ汐干人

千鳥ともいふ足あとよ汐干潟

花便り聞かせもしつゝ看護かな

春の日やたまをはぐくむ真珠貝

薬玉やちぎりめでたき古雛

風ぬるし馬酔木花咲く窓の下

凍解やくれなゐ潰ゆる万年青の実

啓蟄のわが門や誰が靴のあと

に笑ひこぼるゝ会釈かな

遊学の子に蔭膳やくれの春

かんばせの哀れに若し古雛

手拭を水に落とせし汐干かな

掻きよする貝殻鳴りぬ磯遊び

春愁や金槐集をふところに

我れ泣けば子も泣く春の愁ひかな

うらゝかの幼子ころび泣きにけり

昼湯より戻りて遊ぶ針供養

芝を焼く焔小さく走りけり

庭芝をうるほしやみぬ雛の雨