和歌と俳句

水原秋櫻子

青苔に山茶花にほふ神迎

冬紅葉甲斐深き山うかびたり

満月の流水落葉了りけり

なほ残す去りて二十日の霜の菊

堂後なる紅梅にほふしづけさよ

春蘭や暗きに打てる紙砧

の影紙漉く槽は波立ちて

枝移る春禽あれど雲くらし

夕雲の馬酔木に居りて夜も去らず

手賀沼の翡翠来鳴く椿かな

春暁や末まだ覚めぬ花の列

鯛漁季せまる春日の沈むなり

芽立つ中渦いそぐなり阿賀野川

うぐひす華厳巌壁をのぼる雲

みだれ大残雪にひびき落つ

おぼろにて残雪殊に前白根

倒れ木に雪解の波や黄鶺鴒

夜蛙や溶きてもかたき由吉野葛

陀羅尼助軒端の燕孵りけり

著莪咲くや谿に階なす吉野建

雲の中矢車めぐる龍之郷

芍薬や水分の神霧に寂び

うぐひすのこだまの中に滴りつ

荒れざまや若葉の霧の噎び入り

葭雀饒舌つくす蹶速塚