和歌と俳句

水原秋櫻子

冬の梅紺青の斑の鯉澄める

寒鯉を見るやうすうすと群なせる

鯉淡くうすら冬日の影も消ゆ

田にゐたる鴨が初日をよぎり飛ぶ

夜の雪の田をしろくしぬ鴨のこゑ

心足るひと日寒木瓜もさかりなり

道の雪消えて閑庭なほ白し

凍雪を踏みゆき雪舟を見てかへる

無聊の眼寒木瓜にゆけば花紅し

紅梅や佳き墨おろす墨の香と

野の池を十日見ざりき咲く辛夷

炉を塞ぐほとり野雁の羽を置ける

十年見ぬ人来し日より麗らなり

花の雨竹にけぶれば真青なり

花の雨大にふりて屋をおほふ

蕗の葉に谷わたり来し落花あり

藤垂れて朝餉の窓のはしに見ゆ

牡丹見る白髪の人ぞ友なりける

若楓ゆふかぜ池に吹きつのり

若楓葉づたふ雨の瀧なせり

池の雨さむし實梅の枝さしいで

梅の實の朝ぐもりせるはしづかなり

青葉木兎月ありといへる聲の後

芍薬や医をわすれゐる今日の閑