風凪て濤声のこる寒の月
峠より朝日及べる牡丹の芽
アネモネのみだれて霞む沖津浪
八重椿漁港二月の風鳴れど
庵主に侍す啓蟄の蟇ひとつ
春月や利島をかくす波がしら
鹿尾菜刈利島は沖に尖りけり
山城のいづれの庄の春の香ぞ
伴連れて鯒も放てり河豚供養
椿咲き悉皆忘却の茶に参ず
木菟鳴くや竹の落葉に竹の雨
蛙鳴き沼は日の出を阻むなし
皮脱ぎて鮮しき竹径に立つ
沼落す渦のしづかに青田べり
雷魚をり見よとてさわぐ葭雀
ひぐらしや夕立したたる舟日覆
ひぐらしや潮より立ちし巌の門
蝉鳴けり泉湧くより静かにて
経巻の金描浄土ほととぎす
夏蝶も紺紙金泥の経ならむ
雷はれて大日岳ぞ野にのこる
高雲の夕焼淡しや雷のあと
ちんぐるま湿原登路失せやすし
龍膽や巌頭のぞく剣岳
雄山へと雪渓を踏めり一歩づつ