和歌と俳句

水原秋櫻子

しぐれふるみちのくに大き佛あり

時雨ふりただに暗くして厨子ありぬ

厨子ひらき佛居給へりふる時雨

厨子の中金色ならず時雨冷ゆ

照りいでぬ光背なれば時雨冷ゆ

居給ふはたふとけれどもさむき佛

みちのくのしぐれに拝む大き佛

しぐれゐし庭の冬菊に日を見たり

菊の影障子にさして火桶あり

先生の手に炭火映え掌ぞあかき

古今集説きたまひをつぎたまふ

しぐれつつ長居の炭火くづれつつ

吹雪つつあはれ東京に電車絶ゆ

冬の菊障子のそとにくらくなりぬ

御垣なす多摩の春山に雪敷きぬ

春の雪幾日を敷きて汚れなし

かしこさに雪解の松の風をきく

天津日は春日なれども雪まぶし

天わたる日のあり雪解しきりなる

簷の反り春あけぼのに来てあふぐ

扉のひとついたくぬれにし春惜む

巣のほとり初夏金色の雨けぶる

藍青の巣鳥の羽見ゆ巣にあまり

巣鳥はも若葉の柿にゐて鳴ける

尾長どり巣かけし椎は花匂ふ