和歌と俳句

水原秋櫻子

椎こぼれ七つの卵さみどりに

巣に戻る巣鳥を見つつ帰り来ぬ

月ひかり天の夏山明けそむる

夏山は明けつつ月は野を照らす

明易き瀬に口すすぎ朝餉する

橡咲けり白峰北岳を見る岨に

青富士は立てり白樺も若葉せり

ひろき嶺天ゆなだれたり時鳥

向日葵の空かがやけり波の群

向日葵に馳せくる波の礁を超ゆ

向日葵にたぎちて帰る波の列

向日葵にとほき紺青の波の列

美濃の陶の古鉢に盛りて見む

いそのかみ古き平鉢に柿あかし

大き野の入日映えけむ柿はよし

時雨れつつ古人が焼きし陶もよし

巴里の繪のこゝに冴え返り並ぶあはれ

壁冷えて命を懸けし繪ぞ並ぶ

狂ひつゝ死にし君ゆゑ繪のさむさ

夕闇はさむからず君が繪のさむき

君が描く冬青草の青冴ゆる

廢屋園心凍りてわが見たり

さむき繪に吾は顔よせて悼みける

凍天にいまか在るらむ佐伯あはれ