椎こぼれ七つの卵さみどりに
巣に戻る巣鳥を見つつ帰り来ぬ
月ひかり天の夏山明けそむる
夏山は明けつつ月は野を照らす
明易き瀬に口すすぎ朝餉する
橡咲けり白峰北岳を見る岨に
青富士は立てり白樺も若葉せり
ひろき嶺天ゆなだれたり時鳥
向日葵の空かがやけり波の群
向日葵に馳せくる波の礁を超ゆ
向日葵にたぎちて帰る波の列
向日葵にとほき紺青の波の列
美濃の柿陶の古鉢に盛りて見む
いそのかみ古き平鉢に柿あかし
大き野の入日映えけむ柿はよし
時雨れつつ古人が焼きし陶もよし
巴里の繪のこゝに冴え返り並ぶあはれ
壁冷えて命を懸けし繪ぞ並ぶ
狂ひつゝ死にし君ゆゑ繪のさむさ
夕闇はさむからず君が繪のさむき
君が描く冬青草の青冴ゆる
廢屋園心凍りてわが見たり
さむき繪に吾は顔よせて悼みける
凍天にいまか在るらむ佐伯あはれ